ダン・アリエリー: 我々は本当に自分で決めているのか?
目次
直感で欺かれている
まずは上の二つの机のどちらが長いでしょうか?直感的に左の縦になった机だと答える人が多いでしょう。
線を加えて、それを比べてみると同じ長さなのです。
しかしこの線を取り除いたものをみると、同じ長さだとわかっていても感覚は元のままです。
直感は人を繰り返し予想通りに欺くのです。
この色の付いたマスの色の違い。上が茶色で、下が黄色に見えると思います。
他の部分を覆ってみると、実は同じ色だとわかります。
しかしまた元に戻ると感覚は元のまま。
わかっているけれど、錯覚を避ける方法はありません。
視覚でさえ誤り続ける
視覚は我々の最も優れた能力であり、脳のほかの何よりも大きな部分が視覚に使われています。そして他の何をするよりも「見る」ことに時間を費やしています。
このより多く使用している視覚でも、予想通りに繰り返しミスをするならば、その他の分野でミスをする可能性はどれほど多いのでしょうか?
そういった他の分野ではより多くの間違いを犯している可能性は高く、さらに悪いことにその間違いにはなかなか気付きません。
視覚の錯覚では間違いを簡単に示すことができますが、認識の誤りを人に示すのはずっと難しいのです。
臓器提供の結果の錯覚
上のグラフは、ジョンソン教授とゴールドスタイン教授が2003年に『サイエンス』誌に発表した論文のグラフです。
これは臓器提供に関心を示した人の割合を表しています。
右の数値が高い国はたくさん臓器提供するとした国、左の数値が低い国はかなり少ないかほとんど臓器提供しないとした国です。
この結果をみると、たいていは文化の違いや宗教的な理由だと思われます。
しかし、このグラフでは似たような文化背景と思われる国が、かなり異なった振る舞いをするということがわかります。
例えば、デンマークは左で、似ていると思われるスウェーデンは右。ドイツは左でオーストリアは右、オランダは左でベルギーは右。
似ている国というものをどう捉えるかという問題もありますが、非常に異なることがわかりました。
実は質問の仕方の違い
この大きな違いはどういった理由なのでしょうか。
それは、それぞれに送った質問用紙の書き方の違いでした。
左側の数値の低い国へは、
多くの人はチェックをつけない、すると、参加しない、という結果が増えます。
そして右側の高い国へは、
同じくチェックをつけない、すると参加する、という結果が増えたということなのです。
意思決定をしているという錯覚
人は朝起きてからずっと自分の意志で行動していると思っています。
クローゼットを開け、何を着るか?、冷蔵庫を開け、何を食べるか?、自分で決めていると思っています。
実際、この質問用紙が示すものは、多くの決断を自分ではしていないということです。
こういった問題は簡単なことだから大して気にかけていないのではなく、それは反対で、複雑すぎて難しいことで、どうしていいかわからない。だから選ばれたものを受け入れているだけなのです。
手術をするか、薬をもらうか
こういった意思決定の問題は高収入の専門家の間でも存在する。
レデルマイヤーとシェーファーの論文で、患者の事例研究を装った医師に対する研究より。
ある腰痛を持った患者がいて、医師は患者に事前にこう言ったと仮定します。
「あなたたちは数週間前に、もう施す手はないと判断し、薬はどれも効かないので人工股関節の手術をすすめました。それでいいですね?」
1.そして、その医師たちの半数にこう言いました。
「再検討した結果、まだ試していない薬がありました。イブプロフェンです。イブプロフェンを試しますか?それとも手術をしますか?」
すると、こう言われたほとんどの医師は薬を試しました。
2.そして残りの半数の医師たちにこう言いました。
「再検討した結果、まだ試していない薬が2つありました。イブプロフェンとピロキシカムです。薬を試しますか?手術をしますか?薬を試すならどちらの薬を試しますか?」
するとどうするか?
手術をすることは簡単、薬を試すとなると薬の選択もあり複雑になりました。
結果、大多数の医師は人工股関節の手術を選んだのです。
医師という専門家でもこういう判断になるのです。
ローマかパリか盗難か?
また別の意思決定の話。
「週末にローマへ行きたいですか?パリへ行きたいですか?もちろんお代は全てタダです。」
タダとなると迷いますね。
そしてここにもう一つ選択肢を増やします。
「週末にローマへ行きたいですか?パリへ行きたいですか?もちろんお代は全てタダです。それとも車を盗難されたいですか?」
意味がわからない質問が追加されましたが、この「車の盗難」の質問を違うものにしてみるとどうでしょう?
コーヒーありか?コーヒー無しか?
「週末にローマへ行きたいですか?パリへ行きたいですか?もちろんお代は全てタダです。それとも週末にローマ(ただし朝のコーヒーは無し)へ行きたいですか?」
「車の盗難」と同じく、選ばれないだろう選択肢です。
しかしこうすると 「コーヒー無しのローマ」が加わった途端に「(コーヒー付きの)ローマ」の人気が上がり、 みんなそちらを選ぶようになります。
ローマはパリよりも人気になるのです。
エコノミスト誌の購読
さらに同じようなものでエコノミスト誌が広告で購読の値段を出したもの。
-
- オンライン購読 59ドル
- 雑誌の定期購読 125ドル
- オンライン購読と雑誌の定期購読併せたもの 125ドル
MITの学生にどれを選ぶか聞いたところ、
- オンライン購読 16%
- 雑誌の定期購読 0%
- オンライン購読、雑誌の定期購読併せたもの 84%
こういう結果になりました。もちろん雑誌の定期購読だけを選ぶ人はいません。
いるわけがありません。
そしてこの選択を二つにしました。
- オンライン購読 59ドル
- オンライン購読、雑誌の定期購読併せたもの 125ドル
すると結果は以下のようになりました。
- オンライン購読 68%
- オンライン購読、雑誌の定期購読併せたもの 32%
全く反対の結果になりました。
これが意味することは2番目の選択肢は、誰もそれを望まないという点では役立たずですが、人に自分自身が望むものを分らせる点で、役立たずではなかったということなのです。
ここで分かる基本的な考え方は人は自分の好みをよく分っていないということです。
そして自分の好みをあまり知らないがために、定められたものや提示されている特別なオプションなどで影響を受けやすいのです。
トムと醜いトム
最後は人間の魅力に関する意思決定。
肉体的な魅力に関して、誰かに会ってすぐに好きかどうかわかると私たちは思い込んでいます。
ここに婚活パーティーのようなものが成り立つ理由があります。
上のように、上段と下段のそれぞれ両端にいるトムとジェリーという二人の男性を見せます。そしてどちらが魅力的か?とたずねます。
そして上段と下段のそれぞれ真ん中のように、トムの醜いバージョンとジェリーの醜いバージョンを見せます。
すると、醜いバージョンは普通のトムとジェリーの助けになったのでしょうか?
選択されるトムトヘリーの結果はこうなりました。
醜いトムがいるとトムに人気が、反対に醜いジェリーがいるとジェリーに人気が出ます。
自分を良く見られたい状況なら、少し醜い自分に似た人を連れて行くといいですねw
認識的な限界
私たちは物質的な何かを作るときには限界を理解し、限界をわきまえます。
しかし、精神的な世界、それは健康保険や年金や株式市場のようなものをデザインするとき、どうも人は限界を忘れてしまいます。
人々が物質的な限界を理解するのと同じ様に、認識的な限界を理解するなら、人はみんなそれぞれを同じものだとは見ないにしても、より良い世界をデザインすることができるのではないでしょうか。
まとめ
意思決定がこんなにも影響を受けているものとは、思いもしませんでした!
直感やまわりの影響でそうだと確信したり、自分で決めたと思い込んでいたり、それは決して悪いことではなく限界があることなんですね。
選択をするときに、その選択肢をもっと注意深くみて、まわりのものをみて、納得の行く行動を目指したい。
それでも結果としては影響からは逃れられないのでしょうが。。
この講演は⇑この本に書かれている内容と同じです。本ではもっと興味深い実験や調査がたくさんありますよ。
⇓その他のダン・アリエリー教授の本もどれも読みやすく、ためになるものばかりです!
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