【ケーキの切れない非行少年たち】「忘れられた人々」とは?生きにくさを抱える人が隠れている実態!

宮口幸治【ケーキの切れない非行少年たち】2019年 新潮新書

 

ケーキを三等分するのが難しい

「ホールのケーキを三等分してください」と聞くと、上から見て、円の中心を大体120度の角度で3等分して、扇型のケーキを3つ作るだろう。

 

しかし、本の帯(⇑写真)にあるように、三等分をする人がいる。(切り方がどうであれ、面積が同じであれば斬新でいいが、そういう話ではない。)

 

「????」としか思えないが、少し悩んでも、結果そうしてしまう者がいる。

 

幼い子どもや知的障害があると、このような三等分を書く場合もあるというが、そうではなく、それは中学、高校生の凶悪犯罪を犯した非行少年だった。

 

 

世の中が歪んで見える

別の非行少年の一人で、彼は「手がかかる」と言われる傷害事件を起こした少年で、彼に神経心理学の検査のRey複雑図形の模写という、三角、四角、丸が組み合わさった複雑な図形を模写するというテストでは、大きく違ったものを書いたという見本が載っている。(ケーキの切れない非行少年たち,20p)

(それは本書を実際に見てもらいたい。結構、衝撃です。。。)

 

キレイに書き写すのは確かに難しい図ではあるが、彼の書き写した図は、例えば、車を書けと言われてバイクを書いたような、近いけれど全く違うものを書いてしまっているのだ。

 

もちろんそれは見ながら書けるものなので、想像して書いたものではないことに、「どうやったらこれがこうなるのか?」という感想しか出てこない。

 

しかしそこには、非行少年はやっぱり変だ、という言葉だけでは片付けられないものがある。

 

そのように世の中が歪んで見える、そしてそれに近い人々は世間で普通に暮らしていることが多いのだ。(犯罪者予備軍が多いということではありません。

 

忘れられた人々

よく頭の良さを測るものとして、IQがある。

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2019-01-06

⇑別記事の本で、IQが高い人たちの紹介をしたが、反対に、このIQは通常100以上ないと日常生活が困難になるという。

 

知的障害者はこのIQが70未満で定義されているようですが、IQ 70以上でIQ 85未満となると、もしかすると人口の20%は存在するという。

 

そんな人たちは、障害を認定されているわけではなく、支援を受けているわけではなく、日常生活で生きにくさを抱えながら、転職を繰り返したり、引きこもったりしている可能性があるということなのです。(ケーキの切れない非行少年たち,107,108p)

 

また知的障害者の8割〜9割はIQ水準が比較的高く、一般集団と明確に区別できない、「軽度」知的障害を抱えている人が多くいるということです。(ケーキの切れない非行少年たち,108p)

 

しかし「軽度」といっても、支援が必要な人は多い。

 

そのような障害を認定されているわけではないが、「軽度」に障害を抱えている人の特徴として、

 

  • 所得が少ない、貧困率が高い、雇用率が低い
  • 片親が多い
  • 運転免許証を取得するのが難しい
  • 栄養不足、肥満率が高い
  • 友人関係を結び維持することが難しい、孤独になりやすい
  • 支援がないと問題行動を起こしやすい

 

このような傾向にあるということです。(ケーキの切れない非行少年たち,109p)

支援が必要だが受けられていない、そして日常生活で生きづらさを抱えている人たち、それが「忘れられた人々」なのです。

 

虐待と非行

そして虐待をする親には軽度の知的障害を持つ人の傾向が多いということにも言及があります。(高学歴の親が虐待する場合もあるので一概には言えないが。)(ケーキの切れない非行少年たち,112p)

 

また全国の少年院の在院者約2300名に行った調査で約半数に虐待の被害体験があり、それはつまり虐待の経験があると非行に走りやすいリスクが分かったという(ケーキの切れない非行少年たち,178p)

 

それはつまり支援を受けていない「軽度」の知的障害を抱えている人が親となり、子を持つと、また育児という難しい問題の多いものに直面するとそれに対応するすべとして、虐待を生み出してしまう。そしてその虐待を受けた子が、何らかの障害を抱え、その生きにくさから非行へ走る、というパターンが多いということではないだろうか。

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2018-08-03

 

実際に本書の中でも引用のある山本譲司「獄窓記」にも刑務所にいる受刑者は凶悪な人ばかりではなく、新規の受刑者の半数は何らかの障害を抱えている人が多いということです。(ケーキの切れない非行少年たち,115p)

スキルの向上ではなく認知機能の向上を

そんな非行少年に共通する特徴として、

 

    • 認知機能の弱さ
    • 感情統制の弱さ
    • 融通の利かなさ
    • 不適切な自己評価
    • 対人スキルの乏しさ
    • 身体的不器用さ

 

が、挙げられている。(ケーキの切れない非行少年たち,47-48p)

 

早いうちにその特徴をより良い方向に伸ばしていくことで、非行を未然に防ぎ、将来的にも生きにくさを改善できるのだろう。

 

しかし、1例として、上記の5番目にあるような「対人スキルの乏しさ」を改善するために、ソーシャルスキルトレーニングを通してソーシャルスキルを伸ばしていく、という方法があるのだが、それではうまくいかないという。

 

ソーシャルスキルトレーニングが認知行動療法の一つであり、それは認知機能に問題がないことが前提であるというわけだ。(ケーキの切れない非行少年たち,138-139p)

 

それはつまり極端な例で言えば、「1+1の算数が分からない」のに、「センター試験の過去問を繰り返し解ければ数学は理解できる」といっているようなものなのだろう。

 

コグトレの導入

そこで筆者はコグトレ(認知機能強化トレーニング)の導入を勧めている。

 

これは著者の開発したトレーニングの教材だ。本書にも一例があるが、少し高度ではあるが、ゲーム感覚でできそうなトレーニングだ。

 

行動や態度で問題に思えるサインが出始めるのが小学校の低学年からという。(ケーキの切れない非行少年たち,94p)

 

問題児だと放っておくのではなく、真摯に向き合い、このようなトレーニングを考えてみることも、その子どものためになるかもしれない。

 

コグトレについては【ケーキの切れない非行少年たち】にも詳しいが、実際のテキストも年齢に合わせたものやその能力に合わせたものが多数出ている。

 

 

まとめ

「普通に話はできるんだけど、簡単な足し算ができない」とか、「普段はいい人なのに、お願いした簡単なことを全然してくれない」という同僚いませんか?

よく友人の会社の愚痴で聞きます。(幸い、私の同僚にはそんな人はいませんが)

いくら考えても、その行動や考え方は理解できないかもしれない。

それはここでいう「忘れられた人々」という存在なのかもしれない。

難しい問題どころか、マナーとも言えるレベルの簡単なことをできないこともあるようだが、できない人を責めてはいけないのだ。

そのような人は何らかの支援が必要で、そのような人が、日常生活の中で一定数存在することが書かれている本書。

障害の有無、できるできないなど「何が正しいのか?」という難しい問題でもあるが、「色々な人が世の中にはいる」という理解の一助になる本だ。

 

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2018-08-17

 

宮口幸治【ケーキの切れない非行少年たち】2019年 新潮新書

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