【私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳】自分の体の一部が自分のものではないから必要ない人。

私はすでに死んでいる

自分の足がいらないと思ったことはありますか?

自分の足が自分のものではない、こんなもの必要ない、と思ったことがある人はいるでしょうか?

この人生は自分のものではない、なんて言った詩人もいましたが、こういった悩みを抱えている人が世界には存在します。

身体完全同一性障害

身体完全同一性障害(BIID)」(⇐wikipediaにもありますが、まだまだ内容が詳しくない病気です。)という障害です。

性同一性障害なら聞いたことがある人は多いと思います。

それはかいつまんで言うと、自分の与えられた性が自分のものではない、という障害です。

つまり身体完全同一性障害は、自分に与えられた身体の全てが自分のものではない、という障害なのです。

「私はすでに死んでいる」はBIIDに関して、一患者を追って詳しく紹介されている本です。

自分の足がいらない男

第3章「自分の足がいらない男」より一部を紹介します。

「デヴィットが足を切断しようとしたのは、これが初めてではなかった。大学を卒業してまもないころ、古い靴下と荷造り紐で足をきつく縛りあげた。即席の止血帯である。そして自室にこもり、血流が行かないように足を上にして壁につけた。しかし二時間後、すさまじい痛みと恐怖が意志の力を打ちまかした。筋肉が長時間圧迫されて損傷すると、毒素が生成される。血流の回復とともにその毒素が全身にまわると、腎不全になって最悪の場合死んでしまう。しかしデヴィットは自分で紐をほどいた。縛り方がへただったことも幸いした。

それでも足を切ってしまいたい気持ちは変わらない。その欲求は彼の意識に根をおろし、支配していった。彼にとって足は異質な部分であり、まがいもの、侵入者だった。起きているあいだは、足から自由になる想像で頭がいっぱいになる。立つときも「良い」方の足にだけ体重をかけた。自宅では片足飛びで移動し、座っていてもつい手で足を押しのけようとする。この足は断じて自分の足ではない。やがてデヴィットは、この足のせいで自分は結婚できないと思うようになった。郊外の小さなタウンハウスにひとりで暮らし、人づきあいをせず、恋人もつくろうとしない。この強迫観念を他人に知られるのはごめんだった。」(私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳 アニル・アナンサスワーミー 藤井留美=訳 2018年2月26日 紀伊国屋書店 85P)

そしてデヴィットはアジア某国でBIID患者の切断手術を引き受けている医師ドクター・リー(仮名)の元で、足の切断手術を成功させる。

著者は手術の現場にまでついていき、彼の満足した様子までを追っている。

その他の症例

またこの本で紹介されているその他の症例は以下のものです。括弧書きは本書の帯に書かれていたものです。

  • コタール症候群(「自分の脳は死んでいる」と思い込む)
  • 認知症
  • 統合失調症
  • 離人症(何ごとにも感情がわかず現実感を持てない)
  • 自閉症スペクトラム障害
  • 体外離脱、ドッペルゲンガー
  • 恍惚てんかん

医療関係者でなくとも旧知のものから、初耳の症例まであると思いますが、どれも医師ではないジャーナリストが、全ての症例の当事者と対面し、時には手術現場にも潜入したドキュメントです。

それぞれの症状を持った人間と向き合い、その症例の負の面をつらつらと書き立てるものとは違い、その症例を通して、人間とは一体何者なのか、ということに潜入していく本です。

症例の本というよりも、症例を通した多様性という観点から人間を考えられる稀有な本です。

BIID他、その他の症例についての具体性を詳しく知りたい方は一読をおすすめします!

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