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アンジャン・チャタジー:脳はどのように美しさを判定するか?
目次
美しい犯罪者の顔
1878年英国王立人類学協会の講演で、冒険家で人類学者、
社会学者で心理学者、統計学者で優生学者であったフランシス・ゴールトン卿は、
美しさとは何か?という疑問を提示する発表をしました。
彼は当時では新しい合成画像技術で、凶悪犯の写真を合成すると
犯罪性の顔を見つけられると考え、それを作成したが、
その合成画像が映し出したのは美しい顔でした。
美しさとは?
おおよそ人類の歴史の中でこの問いは、論理と憶測を利用して取り組まれ、
ここ20-30年ほどは科学者は進化心理学、神経科学の手法を用いて、美しさの問題を扱ってきました。
その美しさを探る過程において分かった驚くべき事。
もちろん個人の判断差があるが、お互いの中に美しさを見つけることは、
グループの生き残りに貢献する要素により形作られるということです。
それはつまり「平均化」、「対称性」、「ホルモンの影響」、などが顔を魅力的にするということが示されたのです。
以下ではこの3つのことを見ていきます。
「平均化」
まずは「平均化」ということについて。
ゴールトンが発見した平均的な顔は、個人の顔よりも魅力的になるという結果は、
特徴的なこととして何度も再現されました。
平均的な顔はそのグループの中心的な傾向を表します。
混じりあった特徴を持つ人は異なる集団を代表することになり、
おそらくより遺伝的多様性や環境への適応性を想起させるのです。
多くの人が色々な血が混じり合った個人を魅力的と感じ、近親の個人には感じないのです。
「対称性」
人は非対称な顔より、対称な顔に魅力を感じます。
発達に何かしらの異常があるとしばしば非対称性を伴い、
寄生虫の感染により、非対称性を伴うこともあります。
また対称性は健康の指標となる事も明らかになっています。
マックスファクター
1930年、マクシミリアン・ファクトロヴィッチという男が、
美顔測定器で対称の乱れを測定し、対称性の重要さを認識しました。
非対称性を修正する製品を販売したのが、彼の名前を受け継いだマックスファクターで、
現在もある世界的な化粧品ブランドなのです。
「ホルモンの影響」
(ここからのアンジャンのコメントは異性愛者に限定されるものとなります。)
エストロゲンとテストステロンは、女性と男性のホルモンとして、
それぞれが魅力を感じる時に重要な役割を演じます。
エストロゲン
まずは女性のホルモンのエストロゲン。
これは妊娠可能性の特徴を作り出すものです。
男性は一般的には、若さと成熟の両方の要素を併せ持つ女性に魅力を感じます。
同様に顔では、あまりにも子どもっぽい(目の小さいような)顔は妊娠可能性が小さいと捉えられ、
それゆえ男性は目の大きい女性を魅力的と感じ、
ふっくらした唇と狭いあごは若さの指標、
大きな頬骨は成熟の指標と捉えるのです。
皮肉なテストステロン
続いて、男性的特徴を作り出すテストステロン。
濃い眉や薄い頬、頑丈そうで角張った顎が含まれます。
しかしこのテストステロンは皮肉があり、免疫システムを低下させるものなのです。
そしてそこには健康指標ではなく、ハンディキャップ理論があります。
ハンディキャップ理論
例としてクジャクがいます。
クジャクのあの美しい尻尾はご存知かと思いますが、
あの尻尾では捕食者から逃げるのには邪魔であり、メスに近づくにもやはり邪魔です。
クジャクの尻尾はあのチャールズ・ダーウィンでさえ悩ませたものでした。
ダーウィーンはこれを自然淘汰説では説明できず、葛藤の末に性淘汰説を提唱しました。
クジャクの尻尾と1万ドルの腕時計
クジャクが尾羽を見せる行動は、性的な誘惑であり、
これがクジャクの交尾を促し、子孫を得ることを意味するというものです。
そしてこれにかかる新しい学説はオスのクジャクがメスに対して、
健康を宣伝する、というものです。
つまり適応力の高い生物だけが突飛で過度な付属物を維持できるということが可能で、
特にそのようなオスだけがテストステロンの代償を支払えるということなのです。
その類推として、経済的余裕のある、生き残ることができるリッチな男だけが、
1万ドル以上の腕時計をつけられるということと同じことなのでしょう。
遺伝的な選択
このような話では、人は無意識のうちに健康な相手(配偶者)を探すと考えてしまいますが、
若い人はそのような前提で考えているとは思えません。
そこには遺伝的な嗜好があるのです。
3つの種類の好みを緑とオレンジと赤として、
その嗜好を示す人たちを含むそれぞれの集団があるとします。
それぞれのグループでは健康と無関係にその色を嗜好しているだけです。
この嗜好の対象が子孫の繁栄と関係があるとしたら?
例えば3対2対1という比率でグループが存在し、
第1世代で緑が3、オレンジが2、赤が1、存在するものとする。
それ以降の世代では緑の割合がどんどん増加し、
第10世代目では集団の98パーセントが緑を嗜好することになります。
このような集団で抜き取り調査をすると、緑を嗜好することが普遍的だという結果になるでしょう。
この例が示すのは、ある身体的な特徴に対する嗜好は個人には偶然のように思えるが、
その特徴が遺伝するものであり、生殖に有利であると、
時間の経過の中で、集団の普遍的な嗜好となるのです。
美しさに反応する脳
魅力的な顔に、脳はどのように作用するのでしょうか。
まず魅力的な顔を見ると、脳の後方にある視覚野の一部を活性化し、
紡錘状回(ぼうすいじょうかい)と呼ばれる顔や身体情報(他に単語や数字の認知)の処理に特化した領域を活性化。
次にその隣にある、物体や立体情報の処理に特化した
外側後頭複合体(がいそくこうとうふくごうたい)と呼ばれる領域を活性化します。
さらに報酬中枢と快楽中枢も活性化。
それは脳の前部あるいは奥深くの部分の腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)、
眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)、腹側前頭前野(ふくそくぜんとうぜんや)などの
とても複雑な名前の領域を含みます。
人の顔情報処理に最適化された視覚に係わる脳は、
快楽中枢と相互作用して美しさの経験を記憶しようとするのです。
つまり、美しさの知識や意識がなくとも、
魅力的な顔に脳が反応するのです。
美しさは快楽
これに伴う実験例として、被験者に一連の顔を見せる時に、1つの条件として、その1対の顔が同一人物かを判断させます。
このような条件の実験において、美しさの判別ではなく個人の識別を意図している時でさえも、
魅力的な顔は視覚野において神経活動の活性化を強く誘導したのです。
また別の研究では、美しさに対する自動的反応が快楽中枢で発見されたのです。
つまり人の脳は、視覚と快楽を結び付け、
美しさに自動的に反応するということなのです。
美しいことは良いこと?
またこれは脳への刷り込みもあります。
眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)では美しさと良さに対する反応に重複する神経活動があり、
これは美しさや良さを意識していない時にも起こります。
つまり人の脳は反射的に美しさと良さを関連付けているということです。
この反射的な関連付けは美しさの社会的影響の生物学的要因によるものかも知れません。
美しいと知的に見られたり、より信頼を得られたり、
高収入を得られて処罰は軽めに。
その判断が正当とは言えなくても、魅力的なことは人生におけるあらゆる面で有利になります。
醜さは悪いことという偏見
また反対に美しくないこと、つまり醜いことは悪いことという偏見もあります。
アンジャンの研究室での発見は、顔に少しの異常や変形がある人はあまり良くない、
優しくない、知的でない、能力が低い、勤勉でないとみなされるということです。
これは刷り込みがあり、メディアでも顔の醜さを安易に使い、
それを持って悪意のある人を表現するという不当な扱いで増強されています。
この種の無意識の偏見を克服するために、このような偏見を理解し、
人は外見ではなく、行動によって判断することを目指していかなければなりません。
美しさは変化する
いわゆる普遍的な美しさの要素は、更新世後200万年で選択されたものです。
遠い遠い昔、生物は意地が悪く、残酷なものでした。
繁殖可能性に基づく選択の基準を現代に当てはめることは正しいことではありません。
例えば、現在、寄生虫による死亡は死因の上位ではなく、
医学や生殖医療の発展で子どもを産むことは難しいことではなくなっています。
またそのような中で好みと習慣の組み合わせは、自由に、そして多様化しています。
私たちが環境に深く影響を与えるとともに、
現代医学と技術革新が美しさの本質に深い影響を与えているのです。
世界の変化とともに、普遍的な美しさも同様に変化しているのです。
まとめ
美しさは当たり前に良いもので、求められるもののようであります。
それは生物的な要素が多く、また脳によって作用されるものでもあるようです。
しかし見た目だけの美しさは人間性とは切り離さなければなりません。
美しいものは目に見えるものだけではない、それが人間的な考えだと思います。
そんな美しさが普遍的になっていく未来になってもらいたいです。
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