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アメル・カーブール:世界規模の学習危機、それにどう対処するべきか
迫り来る「学習危機」
世界では学校に通っていない子どもが2億5千万人、さらに学校に通いながらもきちんと学べていない子どもが3億3千万人存在します。(2017年現在)
このままでは2030年には、16億人の半数、つまり子どもや若者の半数が学校に通っていないか学べていない状況になります。
アメルが大臣を務めていたチュニジアでは1956年に独立した後の初代大統領ハビーブ・ブルギーバは国家予算の20%という最高域の数字をインフラでは無く、教育に投資し、その恩恵をアメル自身も受けています。
学校に通うだけでは無く学べること、つまり教室に存在する人数から実際に学んでいる人数へと変換する「教育危機」から「学習危機」への転換が必要になっています。
チュニジアの例のようにそれをわずか1世代で達成する方法をアメルは示してくれます。
ベトナムの成功例
その成功のためには、それぞれの国の所得水準で最も早く改善した国と同じ速さで変化することができるなら、1世代のうちに子どもたちを学校へ通わせて、学ばせられるのです。
その例としてベトナムがあります。
ベトナムとチュニジアは一人当たりGDPに占める割合で見ると同程度に初等、中等教育にお金を費やしています。
しかし 2015年のPISA つまり「OECD生徒の学習到達度調査」では、ベトナムの方が高い成果を上げています。(ベトナム22位、チュニジア67位)
ベトナムは読解力、数的思考力の標準化された評価法を導入し、教師もよく監督されていて、生徒の達成度も公開されています。
またベトナムもチュニジアと同じく、20年の間に国家予算の7%から20%まで教育予算を引き上げたということもあります。
(参考:OECD生徒の学習到達度調査http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/03_result.pdf)
教育システムの変革
ベトナムの成功例はよくある話ではありません。
よくある話は途上国の半数しか、小学校段階で系統的な学習評価を行っておらず、中等教育ではもっと少ないのです。
つまり子どもたちが学習できているか、それを知ることができるシステムが必要なのです。
そうしないと、それができない教育システムに大金をつぎ込んでも、子どもたちの成果に繋がらないなら、政府は予算を下げてしまう結果になるからです。
教師の足りないブラジルでの成功例
このような教育システムを目指す前に、教師が圧倒的に足りない国ではどうなるでしょう?
ソマリアではすべての生徒が大学終了レベルの教育を修めて教師になっても、足りないのです。難民キャンプや辺境で暮らす子どもたちがいるのです。
フェリペというブラジルの北西、アマゾン川流域でドイツの4.5倍の広さで土地全体がジャングルと川で覆われているアマゾナス州に暮らす少年がいました。
彼の村には78人、20家族が暮らしています。2015年、その地域でブラジルの教育制度でいう第11学年にあたる生徒はフェリペを含め2人。
この2人の生徒はどうやって教育を受けたら良いのでしょう?
10年前までは州都マナウスに引越すか、勉強を止めるという2つの選択肢かありませんでした。そして大抵は後者を選択しました。
しかし2009年、ブラジルは新たに法律を制定、中等教育を全ブラジル国民に保障、2016年までに実施することを全州に義務付けたのです。
その結果できた仕組みが、訓練された教科担当教師をマナウスに赴任させ、ライブストリーム経由で、コミュニティの1000以上の教室に授業を配信。各教室には5人から25人の生徒がいて、そこには学校生活を指導する担任教師が赴任している。教科担当教師60人とコミュニティの教室にいる2200人以上の担任教師による協働でこの教育問題の解決を図ったのです。
教科担当教師と担任教師を分ける理由
ブラジルの例で行った教科担当教師と担任教師を分けるということはなぜ重要なのでしょうか?
そこには以下の2点のポイントがあります。
- 多くの国では資格のある教師が足りていないこと。
- 教師は訓練されていない仕事や必要のない仕事を抱え込んでいること。
チリの例で、医師という専門職と教師を比べてみましょう。
チリでは医師1人あたりに医療スタッフが4.5人関わりますが、これは最低域です。途上国では平均して1人の医師に医療スタッフは10人います。そして同じチリで教師1人を支えるスタッフは0.5人以下、正確には0.3人ほどなのです。
医師が20人、40人、70人といる患者を抱えて、すべての仕事を1人でこなしていたら到底不可能です。しかし教師は20人、40人、70人といる生徒を抱えて、これを行っているのです。
このように教科担当教師と担任教師を分ける必要があるのです。こうして各教師がベストを尽くすことができ、子どもたちが学校にいるだけではなく、学習ができるようになるのです。
世界中で教育変革を行うために
アメルはこれを世界中で適用できるように、「パイオニア国構想」と呼ばれるプロジェクトでアジア、アフリカの20以上の国がこの教育変革を行うことを約束しました。
そして国のリーダーを対象に2段階の「実績をあげるアプローチ」と呼ぶ訓練を行いました。
まず計画段階で、教師、教員組合、保護者会、政府当局、NGOの人たちなど全員を1部屋に集め、彼女が考案したこの変革と解決法が 全ての人に周知され、支持されるようにしました。
そして次の段階で、容赦ないフォローアップです。毎週毎週何が行われ、何が行われなかったのか状況を確認し、実際に学校などへ人を派遣し、確認をするという方法です。
これをタンザニアで試行し、中等教育課程の生徒の合格率を50%向上させました。
まとめ
教育の問題はここ日本でも同じくあり、教師の過重労働や生徒の学力低下やいじめ、引きこもりの問題など様々です。
日本は先ほどのOECD生徒の学習到達度調査では2015年では総合5位と割と高い成績を挙げられていますが、先ほどのような問題がある限りは良しとしておけることではありません。
担任教師と教科担当教師を分けるという考えはここ日本でも中学校以上では行われているが、積極的に小学校でも取り入れられるのではないだろうか。
そして教師の過重労働を積極的に緩和していくことで、生徒の学習を促し、また生徒を取り巻く問題の解決も測ることができるのではないだろうか。
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